先日、シーカヤックの上でクジラと目が合った。
天候が不安定なこの季節、外洋の遠くまで遠征できる日はそう多くない。
その日は美しい晴天。風は時々吹くけれど、波もなく最高の海日和。
「そうだ、無人島へ探検(&釣り)に行こう!」
いそいそと釣り道具やランチセットを準備して、私達の住む集落の前に見える無人島・スコモバナレを目指す。
海面にキラキラおひさまが眩しい。シーカヤックを漕いでいるとちょっと汗ばむほどの陽気である。山にもチラホラ新緑が見えはじめ、春を強く感じさせてくれる。
家の前の浜を出発後、途中の深場で釣り糸を垂れてみたりなど寄り道しつつ、約1時間ほどで無人島に到着。
こんなに穏やかな日はそう多くない。
せっかくだから無人島を1周するつもりだった。
が。
無人島をぐるり回り込んで、外洋側に出た途端。
沖に大きな大きな水しぶきが見える。
ブフォーーーーッ!!
バシャーーーン!!
ザトウクジラだ!!!
さほど遠くない距離で、ダイナミックなブリーチング(クジラが身体の2/3ほどを海面上に持ち上げ、そのまま全身をひねって水面に身体を叩き付けるような大きなジャンプ)を繰り返している。クジラの移動する方向を注意深く観察し、近づき過ぎないよう慎重にシーカヤックを操船する。
あ!
と思った、その瞬間、カヤックのほんの少し先にクジラが3頭現れた。
しばしの水面休憩なのか、優雅にブロー(呼吸)を繰り返している。
その大きな息づかいが身体の芯までしっかり伝わってくる。
やはり、クジラは圧倒的な存在感だ。
1頭は、目をこちらにじいいと向けて私達を見つめていた。
その時間は一瞬だったかもしれないが、つぶらな瞳の奥に悠久の時の流れを感じさせてくれる不思議なひとときだった。
ここで出会ったクジラ達は、これから何千kmも旅をしてアラスカ辺りへ帰ってゆき、そして、また本格的な冬がくる前に繁殖・子育てをするため、南を目指してやってくる。
この果てしないとも思える大移動を、休むことなく、もちろん文句も言わず、ただ淡々とこの大いなる命の営みを繰り返しているのだ。
ほんとうになんてすごいことなんだろう。
自然界で出会う生き物達には、その大小を問わず、生命の営みへの真摯さにはいつも感動せずにはいられない。
もちろん、彼らは種を絶やさぬよう生を全うしているだけで、余計なことは何も考えてはいないんだろうけれど。
そこが何より美しいと感じてしまう。
3頭のクジラ達はしばらく目の前に浮かんでその姿を見せてくれていた後、ゆっくりと潜行。すぐ遠くに離れて行くかと思いきや、カヤックの下をくぐりぬけて反対側へ顔を出した。
シーカヤックより大きなクジラが光を受けて輝き、ゆったりとカヤックの真下を通り抜けてゆく姿は圧巻であった。
クジラ達が徐々に沖の方へ移動してその姿が小さく小さくなるまで、悠然と泳ぐクジラの姿にしばらく見とれていた。
この大海原の中にポツンと浮かんだ私達のシーカヤックは、彼らにとってちっぽけな流木程度のものだろう。
特に気にも止められない小さな存在でかまわない。
船ひとつない絶景の中、たまたま目の前に姿を見せてくれたクジラ達にただ見とれ、巡り会わせてくれたことへの感謝の気持ちが溢れていた。
クジラの写真を撮ることはできなかったが、心の中にはしっかりとその大きな姿や、風景、心の震えが鮮明に残っている。
加計呂麻島近海で、しかもシーカヤックでザトウクジラに会えるなんてことは滅多にない。この日もきっといろんなタイミングがよかったのだろう。
今年は新年早々スキンダイビングでホエールソングに包まれ、春になって目の前にクジラが現れた。なんだか幸先のよい始まりみたいだ。
今度はいつどこでどんな出会いがあるのだろう。
それを思うだけでワクワクする。
それを思うだけでワクワクする。